【食と暮らしのコラム  第6話】

はじめに:「眠っているのに疲れが取れない冬」

冬になると、睡眠時間はしっかり確保しているのに、

『朝、体が重くて動きづらい』そんな声をよく聞きます。

これは単なる「寒さのせい」ではありません。

冬は日照時間が短くなることでホルモン分泌のリズムが変わり、

体の動きがゆっくりになり、眠りの入り口にも影響することがあります。

 

さらに、室内外の温度差、暖房の乾燥、活動量の低下など、

冬ならではの生活の変化が重なることで、

眠りの質がゆっくりと、しかし確実に揺らぎやすくなる季節です。

眠りは「時間」より「質」。

 

そして、その質は、意外にも台所での過ごし方から整えられることがあります。

『冬の眠りは、体と心のリズムをやさしく調律することからはじまる。』

この視点を軸に、冬の睡眠を支える食事の知恵を読み解きます。

 

1.体温リズムと眠りの深さ

人間の体には、日中は体温が高く、夜にかけて下がっていくという「体温の自然なリズム(サーカディアンリズム)」があります。

この体温がスッと下がるタイミングこそが、深い眠りに入る合図です。

 

しかし冬は、以下の要因から体温の調節がスムーズにいかないことが増えます。

  • 冷えによる血流低下
  • 運動量低下による熱産生の減少
  • 日照不足によるリズムの乱れ
  • 寒暖差による自律神経の負担

 

つまり冬は『眠りにつく体の準備』が整いにくい状態になりがちなのです。

特に、多くの人が悩むのが 「手足の冷え」。

深部体温は下がりたいのに、末端が冷えているとその切り替わりが難しくなってしまいます。

 

そこで重要になるのが、「寝る前に体の中心を一度あたためておくこと」。

入浴も有効ですが、毎日の食事でもこの働きを助けることができます。

「温めて → ゆるめて → やさしく冷ましていく」

この流れが、冬の眠りのリズムづくりです。

 

2.『温活食』が眠りを助ける理由

冬に『温活食』と言うと「体をあたためるだけ?」と誤解されがちですが、

実はその効果はそれだけにとどまりません。

① 温かい食事は「消化の熱」で体をじんわり温める

食事をすると体が温まるのは、DIT(食事誘発性熱産生)と呼ばれる生理的な反応によるもの。

胃腸が動き、消化・吸収のプロセスでエネルギーが生まれるとき、体は自然に熱を発生させます。

特にたんぱく質が関わるとこの反応がやや強くなり、体の内側からぽっと火を灯すように温まります。

 

② 温かい食べ物は『安心感を呼び起こす』

冬の湯気には、人を落ち着かせる不思議な効果があります。

香り、温度、体に広がるあたたかさ

これらが複雑に組み合わさって、心身をリラックスした状態へ導きます。

③ 栄養素が眠りの環境を整える

たとえば、

トリプトファン(必須アミノ酸):メラトニン生成に必要な栄養素

→大豆製品(豆腐・納豆・味噌)、鶏肉、卵、乳製品など

ビタミンB6:材料の変換を助ける

→鮭、カツオ、さつまいも、バナナなど

マグネシウム:関連する酵素の働きをサポート

→海藻類(わかめ・あおさ)、雑穀、ナッツ類など

というように、バランスの良い食事が、質の良い睡眠の土台の一つとなります。

 

温かい食事が直接眠りを深くするわけではありませんが、

眠りやすい『土壌』をつくる力があるということです。

3.夜の食事と深部体温のコントロール

夜遅くにしっかり食事をすると、消化活動が続き、深部体温が下がりにくくなるため、

眠りに入りにくいことがあります。

 

⏰ 理想は「就寝の2〜3時間前まで」

この時間帯で食事を終えておくと、消化の負担が減り、体温の自然な下降を邪魔しません。

 

ただし仕事や生活リズムで難しい場合は、以下のような『軽くて温かい』夜食にすると体は休息モードに入りやすくなります。

 

  • 温かい汁物(味噌汁、卵スープ、野菜スープなど)
  • 消化の良い主菜を少量(豆腐、卵料理など)
  • 胃にやさしい炭水化物(おかゆ、うどん、雑炊など)

※消化の速度には個人差がありますので、ご自身の体調に合わせて調整してください。

 

夜ご飯は「体を満たす」より「体を整える」。

そのくらいの気持ちが、翌朝の元気につながります。

 

4.冬の夜の『眠りの敵』になりやすいもの

冬の睡眠を浅くしやすい習慣を、わかりやすく整理すると……

① 午後以降のカフェイン

カフェインの感受性は人により差がありますが、 夕方の一杯が眠りに影響する人もいます。

② 量の多い夜食

胃腸が活発に動くと体温が高いままになり、寝つきが悪くなることがあります。

③ アルコールの『寝酒』

最初は眠りやすく感じても、後半の睡眠を浅くしやすい性質があります。

④ 冷たい飲み物

冷たい飲み物は体を冷やし、体温を戻そうとする反応で目が冴えたり、胃腸に刺激を与えることがあります。

⑤ 糖質の取り扱い

適量の糖質はトリプトファンの働きを助けますが、寝る直前の大量摂取は消化の負担となり、眠りにくさの原因になることがあります。

5.冬の快眠を支える食材

悩んだら、以下の食材を「温かい汁物」や「煮込み」に入れてみてください。

①眠りをサポートする「たんぱく質」

鶏むね肉・ささみ

消化に良く、体を温めるDIT(食事誘発性熱産生)効果も高い優秀食材。

豆腐・厚揚げ・味噌

植物性のやさしい温かさ。お鍋や味噌汁で手軽に摂取できます。

②ホルモン合成を助ける「ビタミン・ミネラル」

鮭(サケ)

冬においしい鮭は、睡眠ホルモンの合成を助けるビタミンB6が豊富です。

あおさ・わかめ

マグネシウムが豊富。スープに「ちょい足し」するだけでOK。

③深部を温める「薬味」

生姜(しょうが)

加熱すると成分が変化し、体の深部を温める力がアップします。

ネギ・ニラ

特有の香り成分が体を温め、消化をサポートします。

6.栄養士の視点:「温める」とは、『休ませる準備』

温かい食事には「体を温める」以上の意味があります。

それは、体と心の緊張をやわらげて、

休息モードに入りやすい「地ならし」をするということ。

温度、香り、食感

これらがそろって、心身が「安心してよい時間だ」と感じられるようになります。

 

「温めるとは、体に『今日はもう頑張らなくていいよ』と伝えること。」

今日からできる小さな工夫で、冬の夜をより心地よく過ごしていただければ幸いです。

 

ただし、睡眠に関する悩みが続く場合は、かかりつけ医などの医療専門家に相談することが大切です。

7.おわりに:「眠りは『明日の元気』の土台」

冬の夜は、体がこわばりやすく、心も冷えがち。

そんなときこそ、台所のぬくもりが体を助けてくれます。

温かい料理をゆっくり噛んで味わう。

それだけで、体は静かに休息の準備をはじめます。

 

深い眠りは、翌日のやる気と穏やかな気持ちを支える『はじまり』。

あなたの台所が、冬の心と体を守る静かな場所となりますように。

 

まとめ

  • 冬の眠りにくさには冷え・日照不足・生活変化が影響することがある​
  • 温かい食事は、体温の自然なリズムを整える助けとなる
  • バランスの良い食事は睡眠環境を整える土壌になる
  • 夜の食事は就寝2〜3時間前が目安
  • 大切なのは「温めて、整えて、ゆるめていく」習慣
  • 眠りに悩みが続く場合は医療専門家へ

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 
 
どうぞお楽しみに。
 

【参考文献】

厚生労働省「日本人の食事摂取基準」

厚生労働省 e-ヘルスネット「体内時計」

厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」

厚生労働省 e-ヘルスネット「食事誘発性熱産生 / DIT」

厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針 2014」

 

【免責事項】 

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、

個別の医療アドバイスや診断を目的としたものではありません。 

お身体の状態はそれぞれ異なります。

持病をお持ちの方や食事制限が必要な方、また気になる点がある場合は、

安全のため、必ず主治医(かかりつけ医)にご相談ください。