【食と暮らしのコラム 第7話】
はじめに:「乾燥は、体からの小さなサイン」
冬、肌のトラブルが増えるのは特に珍しいことではありません。
- 朝起きると頬がつっぱる。
- 唇がすぐにひび割れる。
- 手の甲が白く粉をふく。
- 喉がチクッと痛い。
こうした乾燥のサインは、体のうるおいを保つ仕組みが環境の影響を受けていることを示している場合があります。
その背景には、
- 室内外の温度差
- 暖房による湿度の低下
- 水分摂取の減少
- 冷えによる血流不足
- 皮脂量の低下
など、冬に特有の環境要因が複雑に関係しています。
皮膚は体の内側と外側をつなぐバリアのような存在で、食事、血流、温度、生活リズムなど、さまざまな影響を受け取ります。
外側からの保湿ケアも大切ですが、同時に「内側の環境」をととのえることが、うるおいを保つための土台づくりになります。
※皮膚の状態は個人差が大きく、体質・年齢・既往歴などによって異なります。
目次
1. 肌のうるおいを支える4つの栄養素
肌の状態には多くの要因がかかわりますが、栄養学的には次の4つの栄養素が肌の健康維持に関わることが知られています。
- ビタミンA(皮膚・粘膜の健康維持)
- ビタミンE(抗酸化作用、血行サポート)
- たんぱく質(皮膚の構造を支える材料)
- 脂質(皮脂バリアを保つための要素)
※「これさえ摂れば乾燥しない」というものではありません。バランスの取れた食事が基本です。
① ビタミンA ― 粘膜や皮膚の『整い』に関わる
ビタミンAは、肌や粘膜が新しく生まれ変わるサイクルを支える栄養素です。
■不足するとどうなる?
ビタミンAが不足すると、以下のような症状が現れることがあります:
- 皮膚の乾燥
- 角質の肥厚
- 粘膜の機能低下
■含まれる食材
- 動物性食品:レバー、うなぎ、卵黄、チーズ
- 植物性食品(体内でビタミンAに変換):にんじん、かぼちゃ、ほうれん草、小松菜
※レバーなどはビタミンAがとても豊富なため、食べ過ぎには注意しましょう
■吸収を高めるコツ
ビタミンAは脂溶性ビタミンのため、油と一緒に摂ると吸収率が高まります。
※過剰摂取にも注意が必要です(特に妊娠中の方)。サプリメントを使用する場合はかかりつけ医等にご相談ください。
② ビタミンE ― 「めぐり」を支えるやさしい味方
ビタミンEは、冬に滞りやすい血行の維持に関わることが知られています。
血流が整うと、必要な栄養が肌の細胞まで届きやすくなり、肌の状態を保つ助けになることがあります。
また、ビタミンEは酸化ストレスへのサポート役でもあり、
乾燥しやすい冬の肌にとって頼もしい存在です。
肌のしなやかさは、『めぐる力』が支えているという視点も大切です。
③ たんぱく質 ― 肌の『土台』になる大切な材料
皮膚、髪、爪、筋肉、ほとんどの組織は、たんぱく質から作られています。
不足するとどうなる?
- 肌荒れ
- かゆみ
- 乾燥
- 修復の遅れ
につながりやすいとされています。
肌のハリは、「材料」の質と量にも支えられています。
日々の食卓に、小さなたんぱく源を加えるだけでも、
内側のリズムが整いやすくなります。
※腎臓病など疾患がある方は、かかりつけ医の指示に従ってください。
④ 脂質 ― 天然の“オイルバリア”を保つ助けに
脂質は悪者扱いされがちですが、肌のうるおいにとっては欠かせない栄養素です。
皮脂は、肌の表面で水分蒸発を防ぐ『天然のクリーム』。
冬は皮脂分泌が低下する傾向があるため、良質な脂質を適量とることが助けになります。
植物油、青魚、ナッツ類などの脂質は、
体にとって比較的とり入れやすい脂質として知られています。
■脂質の役割
- 皮脂膜を形成し、水分蒸発を防ぐ
- 細胞膜の材料
- 脂溶性ビタミン(A・E)の吸収を助ける
冬に意識したい良質な脂質
| 種類 | 食材例 |
|---|---|
| オメガ3脂肪酸 | 青魚(サバ、イワシ、サンマ)、亜麻仁油、えごま油 |
| オメガ9脂肪酸 | オリーブオイル、アボカド |
| その他 | ナッツ類、ごま |
『油を避ける』より、『必要な油を適度にとる』という意識が冬には大切です。
※摂りすぎはカロリー過多につながるため、バランスが大切です。
2.水分は「飲む」だけでなく「食べて補う」
水分を十分にとっているつもりでも、実際には不足していることがあります。
特に暖房の効いた室内では、空気の乾燥によって体からゆっくりと水分が失われていきます。
そこで役に立つのが、『食べながら水分を補う』方法。
■冬の水分補給のコツ
①温かい飲み物をこまめに
- 白湯、麦茶、ほうじ茶など
※カフェインには利尿作用があるため、とくに高齢の方や体調がすぐれないときは、水や麦茶などカフェインの少ない飲み物も組み合わせると安心です。
②食事から水分を取り入れる
以下の料理は、水分と栄養を同時に補給できます:
- 味噌汁(豆腐、わかめ、大根など)
- 野菜スープ
- 鍋料理
- 煮物
- おかゆ・雑炊
➂水分を多く含む食材
- 根菜類:大根、白菜、キャベツ
- 豆腐・豆製品
- きのこ類:しめじ、えのき
- 果物:みかん、りんご、梨
これらは水分だけでなく、ミネラルや食物繊維も同時にとれるため、体に優しい水分補給方法です。
3.冬の乾燥を悪化させやすい生活習慣
①暖房による湿度低下
室内湿度が30%以下になることも
対策:加湿器の使用、濡れタオルを干す
②熱すぎる入浴
皮脂が落ちすぎて乾燥が進む
対策:38〜40℃程度のぬるめのお湯
③冷たい飲み物の過剰摂取
体を冷やし、血流が悪くなる
対策:温かい飲み物を中心に
④早食い
唾液の分泌が減り、口腔内が乾燥
対策:よく噛んでゆっくり食べる
⑤偏った食事
炭水化物のみ、野菜不足
対策:主食・主菜・副菜をそろえる
⑥睡眠不足・ストレス
肌のターンオーバーが乱れる
対策:質の良い睡眠、リラックス時間の確保
※これらの習慣が必ずしも全員に影響するわけではありませんが、複数当てはまる場合は見直しを検討してみてください。
4.栄養士の視点:「うるおい」は生活全体のリズムの中にある
5.おわりに:「うるおいは、生活のぬくもりとつながっている」
まとめ
- 肌の状態は体質・年齢・生活習慣など複合的な要因が関わる
- ビタミンA・E・たんぱく質・脂質は肌の状態を保つための助けに
- 冬は『食べて補う水分補給』が役立つことがある
- 乾燥は暖房・冷え・食事リズムなど多くの要因が関連
- 気になる症状が続く場合は医療専門家へ相談することが安心
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回は咀嚼がつくる、体を守る習慣をご紹介いたします。
どうぞお楽しみに。
【参考文献】
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準」
- 文部科学省「日本食品標準成分表」
【免責事項】
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、
個別の医療アドバイスや診断を目的としたものではありません。
お身体の状態はそれぞれ異なります。
持病をお持ちの方や食事制限が必要な方、また気になる点がある場合は、
安全のため、必ず主治医(かかりつけ医)にご相談ください。