はじめに:「冷えた体では、免疫は働けない」

冬の風が冷たくなるころ、朝の体温が下がり、なんとなく動きが鈍く感じる日が増えてきます。

この「冷え」は、単なる不快感ではなく、体を守る免疫の働きにも関係しています。

体温が下がると血流が滞り、免疫細胞の動きが鈍くなるといわれています。

つまり、体が冷えると免疫の『指揮系統』もゆるやかになってしまうのです。

免疫は温度と代謝に正直。だからこそ、冷えは冬の健康管理の大きなテーマになります。

 

では、どうすれば体の内側から温め、免疫を支えられるのでしょうか。

答えは、特別な食材ではなく、日々の台所の積み重ねの中にあります。

たんぱく質と温性食材―この2つの組み合わせが、冬を乗り越える心強い味方です。

 
冷えた体のイメージ

たんぱく質:免疫の設計図を形にする「職人」

私たちの体を守る免疫システム(白血球、抗体、酵素)。

これらの多くは、すべて『たんぱく質』から作られています。

 

たんぱく質は、免疫の設計図を実際に形にする職人のような存在です。

材料が不足すれば、どんなに優れた設計図があっても完成しません。

風邪をひきやすい、疲れが抜けない、肌荒れが続く

そんなサインは、体が「素材不足」に陥っている合図かもしれません。

たんぱく質が十分にあることで、体は新しい細胞を作り替え、傷ついた部分を修復し、免疫を支える仕組みを整えていきます。

 

また、たんぱく質は「体を温めるエネルギー源」でもあります。

食後に体が自然と温まるのは、「食事誘発性熱産生(DIT)」と呼ばれる生理的反応です。

特にたんぱく質を含む食事はこの働きが強く、体の中に小さな暖房を灯すような効果があります。

しっかりとたんぱく質を摂ることは、体の防御力を静かに支えることでもあるのです。

温性食材:血流を促し、栄養を届ける「サポーター」

たんぱく質が職人なら、温性食材は血流を促し、栄養を届ける『サポーター』です。

生姜、ねぎ、にんにく、ごぼう、にんじん、味噌、発酵食品、これらは古くから冬の台所に欠かせない存在です。

 

単なる『体を温める食材』というより、血流と代謝のめぐりを整える知恵が詰まっています。

たとえば、生姜に含まれるショウガオールは、加熱によって生まれる成分で、血行を促し体の表面を温めます。

にんにくやねぎの香り成分であるアリシンは、血管を広げ、冷えやすい手足まで酸素や栄養を届ける手助けをします。

 

味噌や納豆などの発酵食品には腸内環境を整える力があり、腸の働きを通じて免疫を支えるとされています。

 

こうした『体のめぐり』を整えることは、単に寒さをしのぐだけでなく、「免疫細胞が働きやすい環境を整えること」につながります。

温性食材は、まさに科学と伝統が重なり合う暮らしの知恵なのです。

 

栄養士が考える「チームプレーの献立哲学」

体を支える栄養素は、どれか一つで完結するものではありません。

たんぱく質の代謝を助けるのはビタミンB群であり、その働きを安定させるのはミネラル。

さらに脂質は、ビタミンAやEといった脂溶性栄養素の吸収を助け、粘膜や細胞膜の健康維持に関わります。

このように栄養素は互いに支え合いながら、体のバランスを保っています。

 

献立を考えるときに大切なのは、特別な食品を選ぶことよりも、それぞれの料理が役割を補い合うように意識することです。

主菜ではたんぱく質を、副菜ではビタミンや食物繊維を、汁物では水分やミネラルを、といった具合に、

食材どうしの『つながり』を考えることで、自然と食事全体の調和がとれます。

温かさや香り、食感を大切にすることは、食事の満足感を高め、

結果として、心と体のリズムを穏やかに保つ助けになります。

 

食事づくりは、完璧を目指すことではなく、

「今日の一食が、明日の元気につながる」と考える小さな積み重ねなのです。

料理は科学であり、音楽のようでもあります。

素材ひとつひとつが異なる『音色』を持ち、それらが響き合うことで、食卓に調和が生まれます。

栄養士はそのハーモニーを整える伴奏者として、体と暮らしを心地よく支える存在です。

 

「温める」と「焦らない」の関係

冷えた体を温めるには、即効性よりも継続が大切です。

一時的に温めるよりも、日々の食事で少しずつ代謝を整えていくことが、体の安定につながります。

たんぱく質と温性食材を毎日少しずつ取り入れることで、血流・体温・免疫のリズムが自然に整っていきます。

体は数日で変わるものではありません。

細胞が入れ替わるたびに、少しずつ丈夫に、温かくなっていく、その『変化の時間』こそが健康の本質です。

 

「温める」という行為は、焦らず体を育てること。

料理も体も、火加減ひとつでその結果が変わります。

 

冬の台所は、体を整える場所

寒い季節、湯気の立つ台所では、火と食材の力が静かにめぐり始めます。

たんぱく質は体をつくり、温性食材は血流を整え、

その積み重ねが免疫を支える基盤になっていきます。

調理は、科学の延長であり、暮らしの知恵でもあります。

火を使い、香りを確かめ、味を整える

その一連の作業が、体と心のバランスを少しずつ整えていく時間です。

 

今日の一皿が、明日の元気を支える。

そんな意識が、冬を乗り越える力につながっていきます。

 

まとめ

冷えは免疫の働きを鈍らせる要因のひとつ

たんぱく質は免疫を形づくる「職人」

温性食材は血流を促し、栄養を届ける「サポーター」

栄養は連携して働き、チームで体を支える

「温める」とは焦らず体を育てる時間

 

参考文献:厚生労働省「日本人の食事摂取基準」