はじめに:「風邪の入り口は、いつも『粘膜』から」

冬の空気が乾きはじめると、

施設や家庭の中にも少しずつ「咳」「くしゃみ」「鼻声」が増えてきます。

風邪のウイルスは、私たちの体の「玄関」である喉や鼻から入り込みます。

そこを守っているのが、目には見えないけれどたしかに存在する「粘膜バリア」。

乾燥、疲れ、栄養不足のどれかひとつでも崩れると、

このバリアは薄くなり、ウイルスはあっという間にすり抜けてしまいます。

栄養士の視点から見ると、風邪に負けにくい体をつくるには「粘膜を育てる仕事」です。

元気な高齢者

粘膜を守るための3つの柱

冬に強い粘膜を保つには、3つの栄養的な柱があります。

この3つはそれぞれ独立して働きながら、互いに支え合って『防御ネットワーク』を作ります。

① ビタミンA:細胞を丈夫にする「うるおいの設計士」

皮膚や粘膜の表面をつくる細胞を健康に保つビタミンAは、

まさに「うるおいをデザインする栄養素」です。

十分に摂取できていれば、喉の粘膜がしなやかで傷つきにくくなり、

外からの異物をブロックする力が高まります。

油と一緒に摂ると吸収が良くなるという特徴があり、

日常の中で『少し油を使った調理法』を意識するだけでも粘膜の保湿力が変わります。

「乾燥対策は化粧水より台所から」そんな言葉がぴったりの栄養素です。

② ビタミンC:免疫の司令塔を支える「応援団」

ビタミンCは、免疫細胞の活動を助け、

体内の酸化ストレスを抑える『影の司令塔』のような存在です。

体の中で作り出すことができないため、こまめに摂る必要があります。

一度にたくさんよりも、毎日の積み重ねが重要です。

また、水に溶けやすいという性質があるため、

汁ごと食べられる調理や、やさしい加熱法が理想的です。

湯気を含んだ温かい料理は、喉や鼻の粘膜を一時的にうるおす助けにもなります

冬の食卓で立ちのぼる湯気は、見えないビタミンの香り。

それだけで免疫が少し元気になる気がします。

 

③ たんぱく質:粘膜も免疫も『形づくる材料』

体を守る仕組み―粘膜の細胞、白血球、抗体

それらすべての設計図のもとになるのが、たんぱく質です。

十分なたんぱく質がないと、バリアをつくる材料が不足してしまいます。

体は新しい粘膜をつくり替える力を失い、

ちょっとした乾燥や刺激でも傷つきやすくなります。

やわらかく消化しやすい食品を中心に、

「量よりバランス」を意識して日々の食事に取り入れることがポイントです。

ビタミンは体を整えるお手伝いの道具、たんぱく質は体をつくる土台。

毎日の食事の中で、少しずつその土台を積み上げていくことが大切です。

「食べ方」そのものがバリアを支える

栄養は「何を食べるか」だけではなく、『どう食べるか』でも変わります。

冬の粘膜を守る食べ方には、いくつかの小さな工夫があります。

 

■よく噛む

噛むことで唾液が分泌され、口内が自然にうるおいます。

唾液には抗菌作用があり、最初の防御ラインを強化してくれます。

 

■汁物を添える

1食に1つ「温かい汁」があるだけで、水分補給と温度維持の両面から喉を守ることができます。

喉の乾燥を防ぎ、粘膜細胞の回復を助けます。

 

■飲み物は温度に気をつける

冷たい飲み物は喉を一時的に冷やすため、

温かい飲み物の方が粘膜の血流を保ちやすく、やさしいとされています。

常温または温かい飲み物を選ぶことで、体を無理なく守る習慣が続けやすくなります。

「よく噛む」「温かい」「やさしい温度」

この3つは、栄養士が処方する『見えないサプリメント』です。

冬の栄養士が考える『バリアの哲学』

風邪をひかないための食生活は、特別な食品やサプリメントではなく、

日々のごく普通の食卓の積み重ねにあります。

今日の一食がすぐに効果を出すわけではなくても、

体の中では静かに細胞が入れ替わり、粘膜が生まれ変わり続けています。

栄養士の仕事は、その『見えない更新』を支えること。

言い換えれば、「食べることの先にある健康の時間軸を見つめる」ことです。

風邪に負けにくい体の力は、特別な栄養よりも、地道な継続に宿ります。

それは、食卓のリズムと一緒に育っていくものです。

 

おわりに:「あたたかい食事が、心の免疫も強くする」

冬の食事は、体だけでなく心も温めます。

温かい湯気の向こうに座る誰かの笑顔、

「おいしいね」と交わす何気ない言葉

それが、免疫を静かに後押ししてくれる、いわば『心理的ビタミン』です。

風邪を予防するということは、

自分や仲間の体調を守るだけでなく、

人と人の関係をやさしく保つことでもあります。

食卓の温度が、職場や家庭の空気を変える。

栄養とは、体を支えるだけでなく『暮らしの調律』なのです。

 

まとめ

冬の風邪対策は『粘膜を守る』ことから

ビタミンA・C・たんぱく質の3つが粘膜の支柱

よく噛む・温かい汁物・優しい温度の飲み物が自然な防御

継続する食生活が、体と心の免疫を同時に育てる

 

 
最後までお読みいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに!!!

参考文献:厚生労働省「日本人の食事摂取基準」