一人ひとりの意識が、厨房全体の安全をつくる

冬が近づくと、厨房における衛生管理で特に注意すべき存在がノロウイルスです。

一度でも発生すると、わずかなウイルス量でも感染が広がりやすく、

施設全体の信頼を揺るがす大きな問題につながります。

 

その主な感染経路として注意すべきは、「人の手」と「二枚貝」です。

ノロウイルスは、二枚貝の体内にウイルスが蓄積されることがあり、

加熱が不十分なまま食べると感染するおそれがあります。

そのため、中心部まで85〜90℃で90秒以上の加熱を行うことが推奨されています。

この条件は、ノロウイルスの不活化に有効とされる方法の一つです。

調理の際は、中心部までしっかりと火を通すことで、感染リスクを大きく減らすことができます。

 

また、感染者の手指に付着したウイルスが、調理器具や食材、配膳台などを介して

他の食品に移ることで、二次的に感染が広がるケースも多く見られます。

 

つまり、感染経路は大きく「食材を通じた感染」と「人を介した二次汚染」に分かれます。

そして厨房の現場では、特に後者『人の手』を介した汚染が最も注意すべきポイントです。

たとえば、手洗いが十分でなかったり、体調の変化に気づかないまま作業を続けてしまったり。

そんな日常の中の「ちょっとした油断」が、思わぬ感染のきっかけになります。

 

また、厨房に入る方は、生の二枚貝の摂取を控えることで、

自覚のないままウイルスを持ち込むリスクを減らすことができます。

特に、不顕性感染(症状が出ない感染)の状態で業務に就くことを防ぐうえでも重要です。

 

つまり、ノロウイルス対策の基本は、

薬剤などの衛生管理手段を適切に使いつつも

何より大切なのは、厨房で働く一人ひとりの『個人衛生の徹底』です。

手洗い、健康チェック、服装管理。

この3つを丁寧に積み重ねることこそ、

厨房の安全と利用者の安心を支える、最も確実でシンプルな方法です。

 

1. 感染のほとんどは『人の手』から

ノロウイルスは非常に小さく、わずか10〜100個程度でも感染が成立すると言われています。

他の食中毒菌が数千〜数万個必要なのに比べ、圧倒的に少ない量で感染が成立するため、極めて感染力が強いのが特徴です。

 

調理や配膳に関わる人の手指にウイルスが付着すると、まな板、包丁、食器、配膳台などを通じて食品に移り、施設全体へと広がってしまうことがあります。

特に注意が必要なのは、自覚症状が出る前の「潜伏期間中」でも感染力を持つという点です。

「自分は大丈夫」と思って作業を続けてしまうと、気づかぬうちにウイルスを広げてしまうおそれがあります。

 

厨房の清潔さは、設備の整備だけでなく、一人ひとりの手の衛生意識から始まります。

「自分の手が、厨房全体の安全を支えている」

その意識こそが、感染を防ぐための第一歩です。

 

2. 個人衛生の3つの柱

ノロウイルス対策では、消毒等だけでなく、一人ひとりの衛生意識が欠かせません。

とくに「手洗い」「健康チェック」「服装管理」の3つを意識することで、

感染のリスクを減らし、厨房の衛生を保つ助けになります。

①手洗い:「すべての衛生の出発点」

厨房での手洗いは、単なる「決まりごと」ではなく、すべての衛生管理の出発点です。

トイレを使用した後、食材を扱う前、生の肉や魚を触ったあと、

ゴミ処理や清掃をしたあと、盛付けや配膳に移る前、

そして調理を終えたあと等にその都度、手洗いを行うことが大切です。

1回の手洗いはほんの数分ですが、

その一手間を惜しむだけで、数十人分の食事を汚染してしまうおそれがあります。

手洗いは、安心と安全を守るいちばん身近な「予防策」。

 

厨房で働くすべての人が、日々の習慣として丁寧に行うことが、

感染を防ぐ最も確実な方法です。

 

正しい手洗いの手順(5ステップ)については関連記事:

『はじめての厨房:手洗いが“安心の厨房”をつくる』で詳しく紹介しています。

 

②健康チェック:「体調の変化を見逃さない」

ノロウイルスは、体調不良時だけでなく、症状の出る前にも感染力を持ちます。

そのため、健康チェックの徹底が欠かせません。

発熱、下痢、嘔吐などの症状がある場合は、調理業務に従事しない

体調に違和感がある時点で、早めに報告する

出勤時に健康チェックシートへ記入する

症状が治まった後も、1〜2週間(長い場合は1か月)ウイルスを排出し続けることがあるため、回復後も手洗いを徹底する

医療機関で検便などにより陰性確認を受けてから、調理業務へ復帰することが望ましい

 

健康管理は「自分のため」だけでなく、厨房全体を守る行動です。

『自分の体調を知ること』が、衛生の第一歩になります。

➂服装と身だしなみ:「清潔をまとう」

厨房では、服装そのものが衛生の一部です。

衣類・帽子・手袋の清潔さが、ウイルスや細菌の持ち込み・拡散を防ぎます。

清潔な白衣・エプロン・帽子を毎日洗濯して着用する

作業区域に私物(スマホ・アクセサリー・腕時計など)を持ち込まない

手袋・マスクは作業ごとに交換する

爪は短く、指輪やネイルは外す

 

「清潔な人」が「清潔な厨房」をつくります。

服装の整え方一つにも、衛生意識が表れます。

3. 感染を防ぐ『厨房の空気』をつくる

個人衛生は、マニュアルで終わるものではありません。

日々の声かけや、チーム全体の空気づくりによって守られます。

「手洗いできた?」と声をかけ合う

体調が悪いときに「今日は休みます」と言える雰囲気をつくる

新人やパートにも衛生ルールの『意味』を伝える

定期的に衛生チェックを行い、改善点を共有する

 

こうした小さな積み重ねが、『感染を寄せつけない厨房文化』を育てます。

衛生管理は「人を責める仕組み」ではなく、「人を守る仕組み」。

安心して働ける空気が、最良の予防策になります。

まとめ

ノロウイルスの感染を防ぐためには、薬剤や設備などの対策ももちろん重要ですが、

その土台となるのは、一人ひとりの衛生意識と日々の習慣です。

手洗い・健康管理・服装の清潔。

この3つが確実に守られてこそ、厨房の安全と利用者の安心が生まれます。

 

そして、最も大切なのは「当たり前を続けること」。

一日一日の積み重ねが、利用者の健康、職員の安全、そして施設全体の信頼を守ります。

 

一人ひとりの意識が、「感染を防ぐ力」になる。

それが、真に安心できる厨房づくりの第一歩です。

出典:

厚生労働省『大量調理施設衛生管理マニュアル』

厚生労働省『ノロウイルスに関する Q&A』