【魚コラム 第6話】

~100年生きる魚は、なぜそんなに急がないのか~

魚の寿命はどれくらいでしょうか。

そう聞かれたら、多くの人は数年から十数年くらいを思い浮かべるかもしれません。

ところが海には、人間より長く生きる魚がいます。

その名も『メヌケ』。

名前だけ聞くと、少し不思議です。

「メヌケ」と聞いて、すぐに魚の姿を思い浮かべられる人は、それほど多くないかもしれません。

ブリやサバ、サンマのように食卓で名前を見かける機会は多くありません。

それでも漁業や水産の世界では、深海を語るうえで欠かせない魚のひとつとして知られています。

しかも種類によっては100年近く生きることがあるとされています。

100年。

明治時代に生まれた人が歩いていたころから、海の底で静かに暮らしている魚がいるかもしれない。

そう考えると、少し時間の感覚がおかしくなります。

 

メヌケってどんな魚?

~名前は知っていても、姿は意外と知られていない魚~

メヌケと聞いても、実際の姿を思い浮かべられる人は少ないかもしれません。

体は鮮やかな赤色。

大きな目。

そして少し厳つく、それでいてどこか愛嬌のある顔つき。

スーパーでは切り身で見かけることがあっても、丸ごとの姿を見る機会はそれほど多くありません。

市場に並ぶ姿は、いかにも「深海魚らしい」存在感があります。

しかし、メヌケの本当の面白さは見た目だけではありません。

この魚は、私たちが普段ほとんど目にすることのない「深海」という世界を背負って生きている魚なのです。

私たちがスマートフォンを買い替え、

流行語が変わり、

働き方が変わり、

社会が大きく変化する間も、

メヌケは深海で静かに生きています。

おそらく本人は急いでいません。

「まあ、深海ですから」

とでも言いそうな顔をしています。

もちろん実際には言いません。

魚ですから。

 
メヌケ

1.メヌケという名前の由来

~名前の中に「水圧」が隠れている魚~

メヌケという名前の由来としてよく知られているのが、

深海から急激に引き上げられた際に、目が飛び出したように見えることから「目抜け」と呼ばれるようになったという説です。

深海は非常に高い水圧がかかる世界です。

水深100mで約10気圧。

500mでは約50気圧になります。

私たちが普段暮らしている地上とは、まったく別の環境です。

そんな場所から一気に引き上げられると、体内のガスが膨張し、目や口が押し出されたような状態になることがあります。

もちろん、本当に目が抜け落ちるわけではありません。

けれど昔の漁師たちが見たとき、

「目が抜けそうになっている魚」

と感じたとしても不思議ではないでしょう。

魚の名前には、色や形から付けられたものが数多くあります。

しかしメヌケほど、名前の中に深海の水圧が刻まれている魚は珍しいのです。

 

2.深海はどんな世界なのか

~昼も夜もない海~

私たちは海を見るとき、どうしても海面を見ています。

波。

太陽の反射。

青い海。

しかしメヌケが暮らす場所は、その遥か下です。

水深数百メートル。

場所によっては1000メートル近い海域。

そこでは太陽の光はほとんど届きません。

昼も夜もない。

朝も夕方もない。

あるのは静かな暗闇です。

深海には、私たちの世界とは違う時間が流れているように感じられます。

急ぐ理由がない。

慌てる必要もない。

深海という環境そのものが、ゆっくりした生き方を選ばせているのかもしれません。

3.なぜ深海魚は赤いのか

~目立つ色が、深海では目立たなくなる~

メヌケを初めて見ると、「ずいぶん赤い魚だな」と思います。

市場に並ぶ姿は鮮やかな赤色。

とても目立つ魚です。

ところが深海では、この赤色はあまり目立たないと考えられています。

海の中では、赤い光から先に吸収されていきます。

深く潜るほど赤色は届きにくくなり、赤い体は黒っぽく見えるようになります。

つまり私たちには派手に見える赤色が、深海では身を守る色として働いている可能性があるのです。

地上では目立つ服が、深海では迷彩服になる。

そう考えると少し面白い話です。

メヌケの赤は、美しさのためだけではなく、深海で生きるための工夫でもあるのです。

4.なぜそんなに長生きなのか

~急がないという生存戦略~

メヌケの仲間には、数十年から100年近く生きるものがいるとされています。

なぜそんなに長寿なのでしょうか。

その理由のひとつとして考えられているのが、深海という環境です。

深海は餌が豊富な場所ではありません。

だからこそ、急激に成長するよりも、

少しずつ成長しながら長く生きる方が適している場合があります。

これは私たちの感覚とは少し違います。

現代社会では、

早いこと、

効率が良いこと、

短期間で結果が出ることが評価されがちです。

しかし自然界には、まったく逆の戦略で生きている生き物もいます。

メヌケはその代表例のひとつです。

5.もしメヌケが人間だったら

~深海の哲学者という生き方~

100年近く生きる魚。

そう聞くと、少し想像してしまいます。

もしメヌケが人間だったらどうでしょう。

たぶん流行には詳しくありません。

SNSもやらない。

最新モデルのスマートフォンにも興味がない。

会議でもあまり発言しない。

しかし気づけば、

100年近く生きている。

周囲から、「どうしてそんなに長く生きられるんですか?」と聞かれると、たぶんこう答えます。

「急がなかっただけです。」

もちろん実際には答えません。

魚ですから。

けれど、その生き方そのものが、そう語っているように見えるのです。

 

6.メヌケはなぜ高級魚なのか

~時間が育てる味~

メヌケは高級魚として扱われています。

その理由のひとつが、ゆっくり成長することで生まれる身質です。

加熱すると、身はふっくらとほどけます。

煮付けにすると、上品な旨みがじんわりと広がる。

派手な味ではありません。

けれど、食べ終わったあとに静かな余韻が残ります。

短期間で育ったものには短期間ならではの良さがあります。

一方で、長い時間をかけて育ったものには、また別の魅力があります。

メヌケの味わいには、そんな「時間の積み重ね」が感じられるように思えます。

 

7.深海への適応が教えてくれること

~環境が変われば正解も変わる~

陸上で生きる私たちは、

速いこと

目立つこと

変化すること

を良いことだと考えがちです。

けれど深海では、

目立たない赤色が役に立ち、

急がないことが生存につながり、

長い時間をかけることが合理的になります。

つまり、正解はひとつではない。

生きる場所が変われば、生き方も変わる。

メヌケは、そんな自然の多様さを教えてくれる魚でもあります。

メヌケ

おわりに

~深海から届く「時間」という贈り物~

メヌケは毎日の食卓に並ぶ魚ではありません。

けれど、この魚を知ると、海の見え方が少し変わります。

深海という世界。

高い水圧。

赤い体の意味。

長い寿命。

ゆっくりした成長。

そのどれもが、私たちの常識とは少し違う世界の話です。

だからこそ面白い。

そして少し考えさせられる。

深海には、急がない魚がいます。

100年近く生きる魚がいます。

その魚は今日も、太陽の光が届かない場所で、静かに時間を積み重ねています。

メヌケという魚は、

「長い時間をかけて育つ価値」

を、深海からそっと教えてくれる存在なのです。

 

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