【食とくらしのコラム 第14話】

はじめに

普段の食事の中で、「ビタミン」や「カルシウム」を気にする方は多いですが、「マグネシウム」を意識して摂っているという方は、意外と少ないのではないでしょうか。

マグネシウムは、決して主役として目立つ栄養素ではありません。

 

しかし、私たちの体の中では、心臓を動かすことにも、食べたものをエネルギーに変えることにも関わる、非常に大きな役割を果たしています。

 

それほど重要であるにもかかわらず、不足していても自覚症状が出にくく、健康診断の一般的な項目にも含まれないことが多いため、「見えない栄養失調」になりやすいのが特徴です。

 

「なんとなく疲れが取れない」

「最近、夜中に足がつりやすくなった」

「布団に入っても、体が緊張してうまく眠れない」

そんな、病気ではないけれどすっきりしない「未病」の不調。

 

日常の不調の背景には、多くの要因が重なります。その中で『食と栄養』の視点から見えるのが、マグネシウムです。

※もちろん、こうした症状には、冷えや他の病気など様々な原因が考えられます。

不調が続く場合や気になる症状がある場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。

 

今回は、体の『縁の下の力持ち』、マグネシウムの静かですが偉大な働きについて、少し詳しく紐解いていきましょう。

1.体の中の「ブレーキ」と「スイッチ」

マグネシウムは体内で約300種類以上もの酵素の働きを助けています。その働きを一言で表すなら、「体の調整役」です。

 

特に理解しておきたいのが、「カルシウム」とのペア関係です。

筋肉や神経において、カルシウムは「興奮・収縮」させるスイッチ(アクセル)の役割をします。対して、マグネシウムは「鎮静・弛緩」させるスイッチ(ブレーキ)の役割を担っています。

この2つのバランスが整って初めて、私たちの体はスムーズに動きます。

 

【マグネシウムの主な働き】

  • エネルギー産生

食べた糖質や脂質を、動くための「燃料」に変える着火剤のような役割。

不足すると、燃料はあるのに力が出ない(疲れやすい)状態に関係します。

  • 筋肉の調整

ギュッと縮んだ筋肉を「ふわっ」と緩める役割。

この働きにより、筋肉の動きをスムーズに保ちます。

  • 骨の健康維持

実はマグネシウムの約50〜60%は骨に含まれています。

カルシウムが骨の「レンガ」なら、マグネシウムはその間を埋める「セメント」のように、骨の強度や柔軟性を支えています。

 

「動かす力」と「ゆるめる力」。

その両方をコントロールしているのが、マグネシウムの奥深さです。

 

2.現代人と高齢者、それぞれの「不足の理由」

現代の日本人の食生活では、マグネシウムが不足しがちだと言われることがあります。

なぜでしょうか。

 
 
 

①精製食品への偏り(現代的要因)

マグネシウムは、穀物の外皮や胚芽に多く含まれています。

しかし、現代の食生活は「白米」「白いパン」「精製された麺類」が中心です。

精製の過程で、マグネシウムを含む外皮・胚芽が除去されるため、含有量は未精製のものと比べて減少します。

 

②ストレスとミネラルバランス

精神的なストレスが続くと、ホルモンバランスの変化などを通じて、マグネシウムを含むミネラルバランスが乱れやすくなると指摘されています。

忙しい現代人は、こうした点でも注意が必要です。

 

➂高齢者特有の事情

高齢になると、さらに以下の要因が重なります。

  • 食事量の減少: 全体的なカロリー摂取量が減るため、絶対量が不足する。
  • 吸収率の低下: 胃腸の機能が弱まり、食べたものから効率よくミネラルを取り込めなくなる。
  • 喉の渇きの鈍化: 加齢により喉の渇きを感じにくくなります。
    慢性的な水分不足(脱水傾向)は、体内のミネラルバランスを崩す要因のひとつとされています。
 

3.どうやって摂る? 毎日の食材リスト

マグネシウムは、特定の「スーパーフード」だけで補うよりも、和食でよく使われる身近な食材を組み合わせるのが正解です。

 

昔ながらの合言葉「まごわやさしい」(豆・ごま・わかめ・野菜・魚・しいたけ・いも)の食材には、マグネシウムが豊富なものが多く含まれています。

 

■ おすすめの食材とポイント

  • 大豆製品(豆腐・納豆・厚揚げ・油揚げ)

特に「木綿豆腐」は優秀です。

豆腐を固める凝固剤「にがり」の主成分は塩化マグネシウム。

大豆そのものの栄養に加え、にがり由来のミネラルも摂取できます。

 

  • 海藻類(わかめ・あおさ・ひじき・昆布)

海のミネラルをそのまま蓄えています。

乾燥タイプを常備しておけば、味噌汁やサラダにひとつまみ入れるだけで栄養価がアップします。

 

  • 種実類(アーモンド・すりごま・カシューナッツ)

少量でも含有量が非常に多いのが特徴です。

おすすめは、皮を砕いた「すりごま」や「練りごま」

そのままの粒よりも香りが立ち、固い皮に守られている栄養素を、余すことなく消化・吸収できます。

 

  • 魚介類(しらす・干しエビ・青魚)

骨ごと食べられる小魚や、アジ・サバなどの青魚。

これらは血流を保つEPA/DHAも豊富なため、健康維持の相乗効果が期待できます。

 

  • 未精製の穀物(玄米・雑穀・全粒粉)

白米に「雑穀」を混ぜて、いつもよりお水を少し多めに、ふっくらと炊き上げるだけでも、摂取量は変わります。

 

4.食べ方の知恵 ~「小さな積み重ね」が効いてくる~

マグネシウムは、一度にたくさん摂っても、吸収される割合には限界があり、余分は尿として排出されやすくなることが多い栄養素です。

サプリメントで一発逆転を狙うのではなく、「毎食、少しずつ」体に送り込んであげることが大切です。

 

【実践!マグネシウム・ちょい足し術】

①味噌汁は「具」よりも「汁」を逃さない

マグネシウムは水溶性のため、調理するとお湯に溶け出します。

具材の栄養だけに注目するのではなく、溶け出したミネラルを含んだ汁まで残さず飲むこと。これが食材の力を無駄なく体に取り入れるコツです。

塩分が気になる場合は、カリウム豊富な野菜や海藻を具に選ぶと、バランスが整いやすくなります。

 

②すりごま・海苔・かつお節を食卓に常備

食卓に瓶を置いておき、ご飯やおかずに「ふりかけ」感覚でプラスする習慣をつけましょう。

 

③おやつにもひと工夫

甘いお菓子の代わりに、きな粉ヨーグルトなどを選ぶと、立派な栄養補給になります。

 

④「酸味」と一緒に摂る

お酢やレモン、梅干しなどのクエン酸は、ミネラルの吸収率を高める働き(キレート作用)があると言われています。

焼き魚にレモン、海藻サラダにお酢、という組み合わせは理にかなっています。

 

5.日々の食卓で気づく、小さな変化

マグネシウムを含むミネラルバランスの乱れは、「数値」ではなく「日常の変化」として感じられることがあります。

 

「最近、足がつりやすくなった」

「なんとなく疲れが取れない」

「夜、なかなか寝付けない」

こうした訴えの背景には、様々な原因が考えられますが、水分不足やミネラルバランスの乱れが関係している可能性もあります。

 

だからこそ、日々の食事で「ミネラルへの意識」を持つことが大切です。

マグネシウムのような「見えない栄養素」のことを、時々思い出してみる。

それだけでも、食への向き合い方が少し変わるかもしれません。

 

特別なことではありませんが、こうした栄養バランスを含めた生活全体の積み重ねが、日々の体調を支える土台になります。

 

体が「当たり前に動く」「自然に眠れる」。

そんな何気ない日常こそが、実は何よりも大切なQOL(生活の質)だと実感しています。

※こうした変化には、体調や生活習慣など、個人差があります。

 

6.マグネシウムとの付き合い方

栄養素に「正解」はありません。

あるのは、あなたと食事との、穏やかな関係だけです。

 

【完璧を求めない勇気】

「毎日きちんと摂らなければ」

そう思った瞬間、食事は義務になります。

 

でも、体は思っているよりも賢く、柔軟です。

今日が足りなければ、明日補えばいい。

今週が乱れていても、来週整えればいい。

 

長い目で見たときに、少しずつバランスが取れていれば、

それで十分なのです。

 

【「できない」を責めない】

玄米が苦手。

自炊の時間がない。

外食ばかりの毎日。

 

それは、あなたの生活があるからこそ。

生活を否定する食事に、意味はありません。

 

白米に雑穀をひとつまみ。

コンビニで納豆を手に取る。

定食屋で味噌汁を残さず飲む。

 

できることは、必ずあります。

そして、できることだけで、十分です。

 

【数字に囚われない】

「1日何mg摂ればいいのか?」

「血液検査の数値は正常か?」

数字は目安にはなりますが、それがすべてではありません。

 

  • 朝、すっきり目が覚める。
  • 階段を登っても息切れしない。
  • 夜、自然に眠りにつける。

 

そんな「当たり前の日常」こそが、何よりも確かな答えです。

 

【栄養は、薬ではない】

「いつ効果が出るのか」

「どれくらいで変化を感じられるのか」

 

その問いに、明確な答えはありません。

なぜなら、栄養素は薬ではないからです。

 

薬は、症状に対して即座に働きかけます。

でも、栄養は違います。

栄養は「土台」です。

一夜にして咲く花はなく、一日で育つ木もない。

 

土に水をやり、日の光を浴びせ、ゆっくりと、静かに、根を張り、葉を茂らせ、いつの間にか、そこにある。

体もまた、同じです。

今日の一口が、明日すぐに変化をもたらすわけではありません。

 

でも、今日の一口は、確かに未来の体を作っています。

1週間で劇的に変わることはないかもしれません。

でも、1ヶ月後、3ヶ月後、半年後………。

 

「そういえば最近、以前より調子がいい気がする」

「夜、眠りにつきやすくなったように感じる日が増えた」

「なんとなく、生活のリズムが整ってきた気がする」

そんな風に、ふと気づく日が来ます。

 

それは薬のように即効性があるものではなく、生活全体が整う中で少しずつ感じられる変化です。

 

焦らず、比べず、ただ続ける。

それが、栄養との一番優しい付き合い方です。

 

【あなたの「ちょうどいい」を見つける】

この記事で紹介した方法は、あくまで「ヒント」です。

答えは、あなたの中にあります。

 

あなたの生活のリズム。

あなたの好みの味。

あなたの体の声。

 

それらに耳を傾けながら、少しずつ、試しながら、あなただけの「ちょうどいい」を見つけてください。

 

マグネシウムは、決して難しい栄養素ではありません。

納豆、味噌汁、海苔、豆腐。

それらは、私たちのすぐそばにある、古くからの、優しい食材たちです。

特別なことは、何もいりません。

 

ただ、時々思い出してあげる。

そして、毎日少しずつ続けてみる。

それだけで、十分です。

まとめ

  • 役割: エネルギー産生、筋肉の弛緩、神経の働きを支えるなど、300以上の働きを担う「縁の下の力持ち」。
  • 現状: 精製食品の増加やストレス、加齢による脱水傾向などにより不足しがち。
  • 食材: 豆腐、わかめ、すりごま、魚介類、雑穀など「和の食材」に豊富。
  • コツ: 煮汁ごと飲む、すりごまを活用するなど、毎食少しずつ取り入れる。
  • 大切: 食事からの「小さな積み重ね」が、日々の体調を支える。

 

マグネシウムは、決して派手な栄養素ではありません。

しかし、その静かな働きは、私たちが健やかに生きるための土台を、今日も体の中で支え続けてくれています。

 

今日の食卓に、あと一品。

納豆や海藻サラダを添えてみるのも、ひとつの選択です。

参考情報:

厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』eJIM 「マグネシウム」

厚生労働省 e-ヘルスネット「マグネシウム」

厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」

 

【免責事項】 

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、

個別の医療アドバイスや診断を目的としたものではありません。 

お身体の状態はそれぞれ異なります。

持病をお持ちの方や食事制限が必要な方、また気になる点がある場合は、安全のため、必ず主治医(かかりつけ医)にご相談ください。