【食と暮らしのコラム 第19話】

はじめに:疲れやすさは「怠け」でも「老化」でもない、体からのサイン

「最近、疲れやすくて」という言葉は身近ですが、その原因は単なる寝不足や気のせいだけではありません。

睡眠は足りているはずなのに体が重く、やる気が続かないとき、それは体からの小さな、しかし重要なサインかもしれません。

多くの場合、それは「もっと栄養を足してほしい」という単純なSOSではなく、「体の中でエネルギーを効率よく作る仕組み」が、少しだけスムーズに動かなくなっていることが、一因として考えられる場合があります。

 

このコラムでは、難しい話ではなく、私たちが食べたものを「動く力」に変える体の仕組みから、疲れやすさの背景にある理由を分かりやすく読み解いていきます。

 

1.エネルギーは「食べた瞬間」ではなく、体内の「発電所」で作られる

私たちが活動したり、考えたり、心臓を動かしたりする力は、食事で摂った栄養(ごはん、肉、油など)を体の中で分解し、最終的に「動くためのお金(ATP)」に変えることで生まれます。

この「お金(ATP)」を作る一連の作業は、すぐに終わるものではありません。

 

食べた栄養

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体内で細かく分解

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血液で全身の細胞へ運ぶ

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 細胞内の「小さな発電所」で使える力に変える

 

大事なのは、カロリー(熱量)がたくさんあっても、すぐに力が湧くわけではないという点です。

カロリーという「燃料」は足りているのに疲れるのは、その燃料を「電気」に変える「発電所の働き」が、どこかで鈍っている可能性があるからです。

 

2.疲れの正体は、「エネルギーを作る流れ」が滞っていること

体内でエネルギーを作る仕組みには「流れ」があります。

この流れがスムーズなときに自然と動けます。

 

しかし、この流れ、つまり「代謝」が滞ると、体に変化が起こります。

  • すぐに疲れる:必要な力がすぐに作れないため、ガス欠が早い。
  • 集中が続かない:集中しづらさを感じる人もいます。
  • 回復に時間がかかる:体を修復する力(エネルギー)が不足している可能性があります。

 

この「流れの滞り」は、 日々の生活の中で「なんとなくつらい」と感じる形で現れることがあります。

疲れやすさの背景には、体の中の「エネルギー製造ラインの効率」が関与している場合もあると考えられます。

 

もちろん、疲労の原因は栄養だけでなく、睡眠不足、精神的なストレス、疾患など多岐にわたります。

※疲れが長く続く場合や日常生活に支障が出る場合は、医療機関での確認も大切です。

 

3.エネルギーをスムーズにする「縁の下の助っ人」たち

エネルギーを生み出す主役はごはんや肉ですが、この製造ラインを裏側で支える、欠かせない存在がいます。それがビタミンやミネラルです。

これらは、エネルギーを作り出す作業に必要な「道具」や「潤滑油」のような役割を果たしています。

 

■具体的な役割

①ビタミンB群(B1, B2, B3など)

【役割】

食べたもの(燃料)を次々と「発電所」に運び込み、効率よく燃やすための「作業係」

これが不足すると、製造ライン全体のスピードが落ちる可能性があります。

【ポイント】

特にビタミンB1などは、体内にあまり貯めておけないため、日常的な食事の中で不足しないよう意識されることの多い栄養素です。

 

②ミネラル(マグネシウム、鉄など)

  • マグネシウム

​​エネルギー(ATP)を作る過程を助ける役割。

体に必要な「酸素」を全身に運び、エネルギーを生み出す燃焼作業を可能にする役割。
鉄分が不足すると、酸素を運ぶ機能が低下し、エネルギー活動が非効率になり、疲れを感じやすくなる場合があります。

 

これらの栄養素は、一回飲んだらすぐに効く「特効薬」ではありません。

あくまで、体が本来の力を無理なく出し続けるための「しっかりとした土台」を作るための要素です。

 

4.栄養の「量」よりも「使いこなせる体の状態」が重要

疲れを感じたとき、「栄養ドリンクやサプリメントで量を足さなきゃ」と考えがちですが、それだけでは根本的な解決に至らないことがあります。

エネルギー代謝は、栄養の量以上に、それを「利用できる体の状態」に強く左右されると考えられます。

 

エネルギーを支えるための生活の工夫

①消化・吸収を大切にする

  • 早食いを避け、しっかり噛むことで、体は栄養素をスムーズに受け取れるようになります。
  • ストレスを抱えていると、自律神経の乱れから消化器官の働きが弱まり、せっかく食べた栄養を吸収しきれなくなることが知られています。

 

②回復と水分を確保する

  • 睡眠は、エネルギーの再充電や修復を行う大切な役割の一つです。
  • こまめな水分補給は、体調管理の一環として大切です。

 

疲れやすい体は、「もっと栄養を入れてほしい」ではなく、「ちゃんと栄養を迎え入れ、使える状態を整えてほしい」と訴えていると捉えるのが自然です。

 

【実践のヒント:どう食べればいいか】

栄養素を効率よく利用するには、「何を食べるか」以上に、「どう食べるか」が大切です。

食べる時間のリズムを整える

  • 朝食を欠かさず摂り、体と脳に「活動開始」の合図を送りましょう。
  • 夕食は寝る直前を避け、できるだけ消化器官を休ませる時間を作ると良いでしょう。

 

②食材の種類を少し増やすことを意識する

ビタミンやミネラルは様々な食材に分散しています。

できるだけ、味噌汁やスープ、煮物など、普段の料理に1つ具材を足すだけでも一助になります。

 

➂「噛む時間」を意識して確保する

食事中に一度箸を置く時間を設けるなど、普段より少しゆっくり食べることを意識するだけでも、消化の負担を減らし、栄養素の吸収を助ける一因になる可能性があります。

栄養士の視点:疲労は「がんばりすぎた体」の代償

疲れやすい人ほど、実は真面目で頑張り屋です。

食事を抜かず、仕事を休みません。

しかし、自分の体の小さな声を聞き逃してしまいがちです。

栄養は、さらに頑張るための道具ではなく、頑張らなくても体がスムーズに動く状態を支えるためのものです。

 

【行動変容のヒント:何を整えるか】

大きな変化を求めず、まず次の2点に意識を向けてみましょう。

①夕食に「B群と鉄分」を少しプラス

豚肉やレバー、大豆製品、海藻類に含まれるビタミンB群や鉄分は、日々の体調管理を支える栄養素の一つです。

夕食で少し意識して摂ることで、寝ている間の体の修復を支えます。

②水分補給を「座って」行う

立ち作業の合間に立ったまま飲むのではなく、意識的に休憩として椅子に座り、ゆっくりお茶や水を飲む時間を確保しましょう。

これは、水分補給と同時に自律神経を休ませる「リセット行動」になります。

 

疲労を「自分のせい」と責めるのではなく、「よく頑張ったね」と体を労る視点を持つことが、生活を見直す第一歩になります。

おわりに:疲れにくい体は「日々のリズム」から生まれる

疲れにくい体質は、特別なサプリや方法で急に手に入るものではありません。

 

食べる → 休む → 動く

 

このごく当たり前の体のサイクルが、スムーズに、無理なく回っている状態こそが、疲れにくい体です。

栄養は、その循環を静かに、支える力です。

 

もし最近、持続的な疲れを感じたら、何かを足す前に、まずはご自身の食事と休息の「リズム」に目を向けてみてください。

それが、エネルギー効率を高め、疲労をため込まない体質を目指すための、日々の土台作りにつながります。

まとめ

  • 疲れやすさの原因は、カロリー不足だけでなく、細胞内のエネルギー産生効率の機能的な変調が関与している可能性がある。
  • ビタミンB群やミネラルは、代謝回路の反応を助ける補酵素として、エネルギー生成を支える必須の土台である。
  • 栄養は即効性のある薬ではなく、体が本来の機能を発揮するための基盤。
  • 食事のリズム、咀嚼、水分補給、ストレス管理など、生活環境の「整え方」が、栄養素の量以上に代謝に影響する。
  • 疲れは体からの静かなメッセージであり、頑張ることを要求しているわけではない。
 

【参考文献】

厚生労働省「日本人の食事摂取基準」

厚生労働省 e-ヘルスネット「ストレス」

厚生労働省 健康日本21「休養・こころの健康」

文部科学省『日本食品標準成分表2020年版(八訂)』

 

【免責事項】 

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、

個別の医療アドバイスや診断を目的としたものではありません。 

お身体の状態はそれぞれ異なります。

持病をお持ちの方や食事制限が必要な方、また気になる点がある場合は、安全のため、必ず主治医(かかりつけ医)にご相談ください。